緑の悪霊 第14話


軍属のスザクにとってラウンズは上官。
玄関で応対など失礼にあたるため、それを理由にスザクに何かあったら困ると、完全に混乱していたルルーシュは、一先ずジノを室内へ上げた。
普通に考えれば皇帝の円卓の騎士の一人。
幸い皇族時代に面識はなかったが、相手がルルーシュとナナリーを知らないとは言い切れないというのに、パニック状態のルルーシュはその可能性を一切考えずに、とにかくスザクのマイナス点にならないようにと行動してしまった。
そんなルルーシュの行動に驚いたのはナナリーとスザクだが、かと言って家主が顔も出さず、なおかつお茶一つ出さずに皇帝の騎士を帰す事も確かに問題かと、警戒をしながらもルルーシュの好きな様にやらせていた。
なにせスザクを口実に、皇族である二人、あるいはゼロであるルルーシュを捕らえに来た可能性も未だあるのだ。
敵だった場合は・・・
ナナリーとスザクは無言のまま頷いた。
敵の敵は味方。
ルルーシュに纏わりつく害虫排除では共闘するため、こういう時には頼もしい味方だと互いに認識していた。
夕食作りは中断し、ルルーシュは香り高い紅茶をジノに出した。
もちろんスザクも同席している。
ルルーシュは、ナナリーを速攻で部屋に帰し、ナナリーの部屋で待機していたC.C.と咲世子に任せてきた。いざとなったら二人にナナリーを連れて逃げるよう指示済みだ。
・・・つまり、ここでの会話をナナリーたちは部屋で盗聴していた。

「とても良い香りだ」

マントを脱ぎ、ソファーに腰掛けたジノは、優雅に紅茶を一口含んだ。
さすがラウンズ。
その出自も貴族だけあって、その動きは自然だった。
動揺していても完璧な紅茶を用意出来た事にルルーシュは安堵し、にこやかに礼を言った。その対応に気を良くしたのか、のんびりと寛ぎながらルルーシュを見つめるジノに、スザクは苛立つ心を抑えて話を切り出した。

「ヴァインベルグ卿、ランスロットと手合わせをするために、エリア11へ来られたのですか?」

ランスロット。
それは白兜の名前。

なぜか同席するようジノに言われたルルーシュは、動揺を表に出さないようにしながら、隣りに座るスザクをちらりと見た。

スザクがパイロット。
あの白兜の、パイロット。
あの忌々しいイレギュラーは、スザク。
ああ、そう言えば昔からスザクは俺にとってイレギュラーだった。
技術員だと嘘をついて、戦場に出ていたのか。
しかも、何度も命の取り合いをしていたのか俺たちは。
その事に気落ちするなと言うのは無理な話だが、同時に誇らしくもなった。
流石俺のナナリーの騎士(予定)。
運動神経がいいだけではなくKMF戦でもあれほどの働きをするのか。
ああ、早くお前をこちらに引き込みたい!!
そんな内心のあれやこれやは表に出さ無い代わりに、動揺したのか、ついロイヤルスマイルを浮かべてしまっているルルーシュに視線を向けたジノは真剣な表情で首を振った。
質問をしたのはスザクだというのに、それを無視したような態度に、スザクは思わずすっと目を細めた。

「いくらラウンズという地位があっても、流石にそんな勝手なことは出来ない。所要でエリア11に来たのはいいが、この時間暇になってしまってね。シュナイゼル殿下の技術員が開発している第七世代KMFがこちらにあることを思い出して、訪ねてきたんだ」

そして、スザクが今日はオフで、友人の所へ遊びに行っているという話を聞いたのだという。友人宅はすぐ近く。休みを潰してしまうのは申し訳ないが、鬼神の如き働きをするというランスロットとの手合わせという誘惑に勝てずにこうして押しかけてきたという。
だが、「今はもういいんです」と、ジノは言った。

「来てよかった。私の運命の人とこうして出逢うことが出来た」

真剣な眼差しで、ルルーシュをじっと見つめていた。

「「は?」」

何を言っているんだ?とルルーシュは思わず声を上げた。
こいつ、害虫だったのか。しかも何俺の前で口説いてんだよ!と、おもわず低い声を上げたスザク。
言われてみれば、このジノという男、ルルーシュを一目見た時から妙に熱っぽい視線は向けていた。
視線もずっとルルーシュを追っていたし・・・くっ、動揺したせいで気づくのが遅れた!
これは俺のものだ!見るな!減るだろう!
大体ルルーシュの好みは茶髪の癖毛、くりっとした大きな眼に穏やかな笑みを浮かべるナナリーと俺だけだ!お前は・・・確かに犬要素といい笑顔ではあるがルルーシュの好みじゃない!!
自室にいるナナリーも同様で「害虫が湧きましたね・・・ですがお兄様の好みは最愛の妹である私と、あの駄犬です」と、恐ろしく低い声で呟いていた。

「ルルーシュ、私と一緒にブリタニアに来てくれないか」
「お断りします」

即答。
しかも冷ややかな口調で、先程までの笑みなど綺麗に消え去り、冷たく見下すような視線を向けている。
王者の威厳もつい纏ってしまったため、ジノは思わず息をのんだ。
それは気押されたからなのか、あるいはルルーシュの美しさに見惚れたのか。
前者だよなお前?ルルーシュが怒っても美人だからってこれ以上惚れるなよな!と、スザクは笑顔のまま威嚇したが、ジノの視界にスザクは欠片も入っていなかった。

「ナイトオブラウンズともなると、そのような冗談もされるのですね」
「ルルーシュ、私は真剣に」
「私は男ですし、何より初対面の相手に告白をされ、受けるほど軽くはありませんよ」

何より、あのクソオヤジに忠誠を誓ったクソ騎士。
ブリタニアに戻る?ふざけてるのか。
俺はブリタニアに戻りたいのではなく、ブリタニアをぶっ壊したいんだ!
というか、鬼籍に入っているとはいえ、お前の主の息子の一人だぞ。
そのうえ同姓相手に出会って10分で何を言ってるんだこいつは。
・・・いや待て、確かナイトオブスリーはまだ少年だというのに、女性関係の噂が絶えなかったはずだ。
そして、ラウンズを嫌う人間が影で読んでいるあだ名がナンパオブスリー。
女にだらしないこいつは、女だけではなく男にも声をかけるのか。
そんな貞操概念にゆるい男など願い下げだ!
ああ、ナナリーを速攻で隠してよかった。
純真無垢、地上に舞い降りた天使ナナリーを見れば、この尻軽男のことだ、今すぐ結婚しようなどと言い出しかねない。ナナリーがそれを本気にするとは思えないが、拒絶すればラウンズの権限で無理やり連れて行く可能性もある。
スザクに関してもだ。
いやむしろナナリーを隠せた以上問題はスザクだ。
今はスザクよりも俺を選んだようだが、それはスザクとは今後も会える可能性が高く、反対に俺はそう会う機会がないからだろう。
間違いなくこの男、スザクも狙っている。
俺に声をかけるぐらいだ。優しく穏やかで幼さの残る愛らしい顔と、男らしいたくましい肉体を併せ持つスザクに目を付けないはずがない。軍属である以上、上官であるラウンズには逆らえないスザクは無理やり・・・。あああ!そんな事!そんな事をさせてたまるか!!皇室や貴族、軍属の連中にはそう言う趣味の輩は多いと聞くが!!いくら愛らしいからとスザクにそんなこと許せるかああああ!!スザクは俺のナナリーの騎士(予定)だぞ!!!貴様ごときが汚していい人間ではない!!
・・・仕方がないここは、俺に興味を引きつけ、その上で二人きりになり、ギアスをかけ、二度と俺たちに関わらないようにするべきだ!
フフフフフ、アハハハハハハ!完璧だ!さすが俺!やれる!やってみせる!
短時間でそこまで考えたルルーシュは、よし、やるべきことは決まったと、それまでの硬い表情を崩し、ニッコリと微笑んだ。
スザクはルルーシュの笑みに、なんで!?と動揺し、ジノは頬を染めてうっとりとルルーシュを見た。

13話
15話